玖珂郡 錦町 木谷
新緑の沢歩きほど快適なものはない。慈しむが如き陽光を浴びつつ、薫風に襟元を撫でられ、新芽に酔い呆けていると、しみじみと生きている実感が湧いてくる。
四月の末日、かねてから気持ちの片隅にひっかかっていた、木谷峡の支沢踏査を結構した。この日の延べの歩行距離は相当なものだったが、その手応えは疲れを忘れさせるものがあり、クライマックスはこの黒滝との出会いであった。
木谷川の数ある支川の中でも、島の谷の沢は一番大きく奥行きがある。源流は馬糞ヶ岳の一ピークで、木谷の中心大固屋の少し下流で、本流に直角に合流する。
砂利道の車道が、大固屋から下流方面へ引き返すかの如く高巻いて、川沿いの本道との高度差をみるみる増す。島の谷の沢が視界に入る頃には、本道ははるか下の方に見えるようになる。
分岐点から一㌔ぐらいで車道は終わり、小道となっているのをしばらく進めば、谷川に下降する踏み跡道がある。上の小道と平行する小道があり、これに達したら合流点方面へ降りながらたどってゆけば、瀬の音が一段と大きく聞こえる箇所にさしかかる。あたりの林は大きなモミジの樹がいっぱいで、晩秋にはさぞ壮観であろう。
黒滝はこのモミジ林のかなり下方にある。音を目指して、道なき急傾面を立木をたよって下降すると滝の左側面にでる。
滝はおおまかには三段で、上段17㍍、中断は22㍍下段は目測にして15㍍ぐらいというところだ。滝の側面を露岩部が広く縁取りしていて、増水時の迫力を彷彿とさせる。
島の谷の集落跡はこの滝より1㌔ばかり上流で、数戸の廃屋がある。その庭先には春の陽光をいっぱいに浴びた梨の古木が数本、白い花を一面につけてたたずんでいた。そして近くには大滝の飛漠が水しぶきを飛ばしているのが見られる。