阿武郡 川上村 横坂
今から十年以上前、私は萩で四年間を過ごした。当時の私は自然よりも歴史に興味があり、市内の史跡めぐりなどに凝っていた。維新研究の私的サークルがあり、現徳山大学の脇教授が相談役で顔を出されていた。私も末席をけがしていて、もっぱら聞き役であったのだが、その頃、かすかに耳に残っていた情報に、基盤ヶ岳近くの滝の事があった。その滝というのが、扇子落としの滝と鳴海の滝であった。そしてこの滝の存在を十数年後、柳井の地で想起する事となった。
きっかけは『防長百山』(阿部正道著・マツノ書店刊)と中国新聞連載の『中国自然歩道踏破記』に目を通してからだ。そして遠征の形で、古巣の地に再び足を運ぶ事になり、かげろうにかすんでいたこの地の山野の映像が、写真のように鮮明に脳裏に焼きつくこととなった。
鳴海の滝は三つの滝からなり、上滝は三段の三六㍍、中滝は滝壷を具えた一七㍍の素直な滝、下滝は二段の一七㍍の滝である。
扇子落としの滝と類似したものを感じるが、こちらの方に清潔感があるように思う。
鳴海の滝のある沢は基盤ヶ岳西側の中腹にある鳥越と呼ぶ地の水を集めている。その鳥越は萩市の東光寺の傍から、人丸神社をかすめて通る砂利道を、桜川沿いにたどってゆけばよいが、相当の悪路である。到着してみると、弧絶という言葉がぴったりの別天地である。この鳥越から小川沿いに下ってゆけば、三段の上滝に背後から接近できる。
正面つまり下滝から眺むルートは車ですぐ近くまで行けるので、背後からのルートより楽である。この場合は扇子落としの滝と同じく立野から入るのがよい。ただしその車道は草の多い石ころ道となる。
取りつきの滝は、大石の間から二段に落ちているが、陰気で、ややがさつの感がしないでもない。いちばん見栄えのする中の滝に挑戦するには、左岸の林の急傾斜を登ればすぐである。ついでにもう一度崖をよじ登って上面に出ればナメ状の瀬が二〇㍍ばかりあって、その奥にかなりのスケールで三段の上滝がかまえている。
ハイヒールでは探勝するわけにはゆかない滝の一つである。(カラー写真参照)