阿武郡 福栄村 福井下
滝の場合その水量と落差が両方とも、大きいということは珍しいが、この牧の滝はそれを両立させている。クレームがつくとすれば、一本の垂直な滝でなく、途中がテラス状になっている二段の滝だという事であろう。上段は一三メートルの棒状の滝、テラスから下は三裂してやや傾斜ぎみの、立板のような岩壁を白泡をなして駆け下る。その高さ二〇メートル余、したがって総落差が約四〇メートルの壮瀑である。ところが惜しいかな、一見すると上段の滝しか見えず、下段は視界をさえぎられて、それきりのものと早合点しかねない。
滝は全体が道路より低い位置にあり、その道路が「h]字状にとり巻いている。それゆえ地理的には恵まれているといえようが、半面神秘性に欠けることにもなっている。巨木やモミジもなく、やぶとつる草が下半身を隠されて、せっかくの美質が生かされていない。この滝に限っては、滝を一望できる施設の工夫を望みたい。
滝の上流側は平らな地形で、田園地帯が広がっている。下流側はくさび状の谷をなして一キロ先で大井川本流に合流している。
この滝は、おそらく数万年前は合流点近くにあったものが、後退して現地点に至ってのであろう。
牧の滝の地名は、西側の羽賀ノ台が放牧地-牧場-であった事に関連しているらしい。この羽賀ノ台は大きな溶岩台地で、防長二国に封じられた毛利藩が、平時においても定期的に、兵馬の演習を行った地として有名である。
台のふもとの黒川から萩方面へ、ゆるやかな峠を越えると、道路の右端に川が沿っていて途中に落差二〇メートルの滝がある。如意ヶ滝といい、近くのトンネルにその名が冠してある。この滝も道路下で、その気でないと見つからない。滝も川も、道路の拡張工事で片隅に追いやられて、すっかりしょげてみえる。

